加齢とともに体の変化を感じる男性は少なくありません。特に40代以降になると、「以前より疲れやすくなった」「やる気が起きない」「体調がなんとなく優れない」といった漠然とした不調に悩まされることがあります。これらの症状は、単なる歳のせいだと片付けられがちですが、もしかすると「男性更年期」かもしれません。
この記事では、男性更年期の症状、原因、セルフチェックの方法から、専門的な診断や治療法、そして今日から実践できる改善・予防策まで、男性更年期に関するあらゆる疑問に詳しくお答えします。ご自身の状態に当てはまるか確認し、適切な対処法を知ることで、より健やかな毎日を取り戻すための一歩を踏み出しましょう。
男性更年期とは?LOH症候群について
男性更年期とは、一般的に40代以降の男性に起こりやすい心身の不調を指し、正式には「LOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)」と呼ばれます。これは、加齢に伴う男性ホルモン(テストステロン)の低下によって引き起こされる症状のことです。
引用元URL
https://www.genkiplaza.or.jp/column_health/detail0003/
女性の更年期は閉経という明確な区切りがある一方で、男性のテストステロンは比較的緩やかに低下するため、男性更年期の症状の現れ方や程度には個人差が大きく、気づきにくい場合もあります。しかし、放置すると症状が悪化し、日常生活に支障をきたしたり、生活の質(QOL)を著しく低下させたりする可能性があります。
LOH症候群は、単にテストステロンが低い状態を指すのではなく、「テストステロンの低下」とそれに伴う「特徴的な症状」の両方が認められる場合に診断されます。テストステロンの低下は加齢だけでなく、ストレスや生活習慣なども影響することが分かっています。また、LOH症候群はうつ、性機能低下、認知機能の低下、骨粗鬆症、心血管疾患、メタボリックシンドロームのリスクファクターとなり、心血管疾患、糖尿病、呼吸器疾患のリスクも高めることが分かっています。
引用元URL
https://hosp.juntendo.ac.jp/clinic/department/hinyo/disease/case06.html
男性更年期の症状は多岐にわたり、身体的なもの、精神的なもの、性機能に関するものなど、様々な形で現れます。これらの症状は他の病気と間違われやすいため、適切な診断が重要となります。
男性更年期の主な症状とセルフチェック
男性更年期(LOH症候群)の症状は、非常に多様です。人によって現れる症状の種類や程度は異なり、複数の症状が複合的に現れることも少なくありません。ここでは、主な症状をカテゴリ別に解説し、ご自身の状態を確認できるセルフチェックの質問もご紹介します。
これらの症状は、男性ホルモンであるテストステロンの低下と密接に関連しています。テストステロンは、筋肉量や骨密度の維持、造血作用、性機能の維持、精神的な安定など、男性の体と心の健康に多方面で重要な役割を果たしています。そのレベルが低下することで、様々な不調が現れるのです。
身体的な症状
身体的な症状は、体力の衰えや体の変化として現れることが多いです。
- 疲労感・倦怠感: 十分な休息をとっても疲れが取れない、体がだるいといった状態が続きます。以前は平気だった作業や運動でもすぐに疲れてしまうことがあります。
- 筋肉量・筋力の低下: 以前より筋肉がつきにくくなったり、筋力が落ちたと感じたりします。体が細くなった、または脂肪がつきやすくなったと感じる方もいます。
- 関節痛・筋肉痛: 特に理由がないのに、関節や筋肉に痛みを感じることがあります。体の回復力が落ちたように感じることも。
- 発汗・ほてり: 急に顔や体が熱くなる、多量の汗をかくといったホットフラッシュのような症状が現れることがあります。これは女性の更年期にも見られる症状ですが、男性にも起こり得ます。
- 睡眠障害: 寝つきが悪くなる、夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚めてしまうなど、睡眠の質が低下します。十分に寝た気がせず、日中の眠気につながることも。
- 体の冷え: 手足の先などが冷えやすくなることがあります。
- めまい・耳鳴り: 特に体の不調がないのに、めまいや耳鳴りが起きることがあります。
- 頭痛・肩こり: 慢性的な頭痛や肩こりに悩まされることがあります。
これらの身体症状は、加齢や運動不足、他の病気でも起こりうるため、男性更年期と断定することはできませんが、複数の症状が同時に現れる場合は注意が必要です。
精神的な症状(不眠、イライラなど)
精神的な症状は、感情の起伏が激しくなったり、意欲が低下したりといった形で現れることが多いです。これらは日常生活や仕事にも大きな影響を与える可能性があります。
- 気分の落ち込み・抑うつ: 以前は楽しめていたことに関心が持てなくなる、ゆううつな気分が続く、何もする気が起きないといった抑うつ状態になることがあります。単なる「気のせい」ではなく、治療が必要な場合もあります。
- イライラ・怒りやすさ: ささいなことでカッとなったり、家族や職場の同僚に対してイライラしやすくなったりします。感情のコントロールが難しくなったと感じることがあります。
- 不安感・焦燥感: 将来への不安を感じやすくなる、理由もなく落ち着かない、焦る気持ちになるといった症状が現れることがあります。
- 集中力・記憶力の低下: 仕事や趣味に集中できなくなる、物忘れが多くなるなど、認知機能の低下を感じることがあります。
- 意欲の低下: 何事にもやる気が起きない、新しいことに挑戦する気になれない、趣味や仕事への関心が薄れるといった症状が見られます。
- 不眠: 前述の睡眠障害と関連しますが、特に精神的なストレスや不安から不眠が悪化することがあります。
これらの精神症状は、うつ病や適応障害など他の精神疾患とも共通する部分が多いため、正確な診断が不可欠です。
性機能に関する症状
性機能に関する症状は、男性更年期のサインとして比較的気づきやすい症状の一つです。
- 性欲の低下: 性的なことへの関心が薄れる、以前より性欲がなくなったと感じるといった症状が最も一般的です。
- 勃起力の低下(ED): 勃起しにくくなる、勃起を維持できなくなるなど、いわゆる勃起不全(ED)の症状が現れます。これは男性更年期を疑う重要なサインの一つです。
- 朝立ちの減少: 朝立ちが以前より減った、または全くなくなったと感じることもあります。
- 射精に関する問題: 射精時の感覚の変化や、射精量の減少などが起こることがあります。
これらの性機能に関する症状は、パートナーシップにも影響を与える可能性があるため、早めの対応が推奨されます。
男性更年期セルフチェック
以下の質問は、男性更年期(LOH症候群)の可能性を評価するための一般的なセルフチェックリストです。あくまで目安であり、診断に代わるものではありませんが、ご自身の状態を知る上で参考になります。
それぞれの質問に対し、「全くない」「たまにある」「時々ある」「しばしばある」「常にまたはほとんど常にある」のいずれかで回答してください。
質問内容 | 全くない | たまにある | 時々ある | しばしばある | 常にまたはほとんど常にある |
---|---|---|---|---|---|
全体的に調子が思わしくない(だるい、疲れやすいなど) | |||||
関節や筋肉の痛みに悩まされている | |||||
汗をかきやすい(異常な発汗、ホットフラッシュなど) | |||||
眠りが浅い、寝つきが悪い | |||||
よくイライラする | |||||
不安感がある(神経質である) | |||||
疲れやすく、活動性が低下した | |||||
筋力が低下したと感じる | |||||
憂鬱な気分になる(気分が落ち込む) | |||||
性欲が低下した |
評価の目安:
- 「常にまたはほとんど常にある」が1つでもある、または「時々ある」や「しばしばある」が複数ある場合、男性更年期の可能性があると考えられます。
- 特に「性欲の低下」「勃起力の低下」「筋力の低下」「疲労感」「気分の落ち込み」といった項目に強く当てはまる場合は、男性更年期の可能性が高いかもしれません。
このチェックリストの結果だけで自己判断せず、気になる症状がある場合は、専門の医療機関に相談することをお勧めします。
男性更年期の原因:男性ホルモン(テストステロン)の低下
男性更年期(LOH症候群)の最も主要な原因は、男性ホルモンであるテストステロンの分泌量の低下です。テストステロンは男性の性的な発達や機能だけでなく、全身の健康維持に不可欠なホルモンであり、その低下が様々な不調を引き起こします。
加齢によるテストステロンの変化
男性のテストステロンレベルは、一般的に思春期にピークを迎え、その後20代後半から30代にかけて安定します。そして、40代以降になると、多くの場合、徐々にテストステロンの分泌量が低下していきます。この加齢に伴うテストステロンの低下は生理的な変化であり、誰にでも起こりうるものです。一般に、テストステロンの量は10代前半から急激に増え始め、20歳ごろをピークに年齢とともになだらかなカーブを描いて減少していきます。
引用元URL
https://www.genkiplaza.or.jp/column_health/detail0003/
しかし、テストステロンの低下スピードや最終的なレベルには個人差が大きく、すべての男性がLOH症候群になるわけではありません。加齢による低下だけでなく、その他の要因が複合的に関与することで、症状が現れやすくなると考えられています。
テストステロンは主に精巣で作られますが、脳の視床下部や下垂体からの指令によって分泌が調節されています。加齢に伴い、これらの調節機能や精巣自体の機能が徐々に低下することが、テストステロン分泌量減少の一因となります。
ストレスや生活習慣の影響
加齢以外の要因として、テストステロンの低下に大きく影響するのが、ストレスや生活習慣です。
- 慢性的なストレス: 精神的、肉体的なストレスは、テストステロンの分泌を抑制することが知られています。特に現代社会では、仕事や人間関係による慢性的なストレスを抱える男性が多く、これがテストステロン低下の一因となっている可能性があります。ストレスが多いと、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が増加し、テストステロンの分泌を妨げることが分かっています。
- 不規則な生活: 睡眠不足、夜勤など体内時計が乱れる生活は、ホルモンバランスに悪影響を及ぼし、テストステロン低下につながる可能性があります。
- 運動不足: 適度な運動はテストステロン分泌を促進する効果がありますが、運動不足になるとテストステロンレベルが低下しやすくなります。
- 偏った食事: 栄養バランスの偏った食事、特に亜鉛などのミネラル不足や過度な飲酒は、テストステロン合成に影響を与える可能性があります。
- 肥満: 特に内臓脂肪の蓄積は、テストステロンを女性ホルモンに変換する酵素の働きを活発化させたり、テストステロンの分泌を抑制したりすることが分かっています。肥満、特にメタボリックシンドロームは男性更年期のリスクを高めます。
- 喫煙: 喫煙もテストステロンレベルを低下させる要因の一つと考えられています。
- 特定の疾患: 糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病や、うつ病などの精神疾患、あるいは精巣や下垂体などの内分泌器官の疾患も、テストステロン低下や男性更年期症状に関与することがあります。
このように、男性更年期は単なる加齢現象ではなく、様々な要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。特にストレスや生活習慣の改善は、テストステロンレベルの維持や向上に重要な役割を果たします。
男性更年期になりやすい年齢層
男性更年期(LOH症候群)は、加齢に伴うテストステロンの低下が主な原因であるため、一般的に40代以降の男性に多く見られます。発症は40代後半頃から見られ、患者さんが最も多いのは50~60代と言われています(70~80代で症状を訴える方もいます)。
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https://www.genkiplaza.or.jp/column_health/detail0003/
この年代は、仕事や家庭で責任が増え、ストレスを抱えやすい時期でもあります。加齢によるテストステロンの生理的な低下に加えて、これらの社会的・心理的な要因が重なることで、症状が顕著になるケースが多いと考えられます。
ただし、テストステロンの低下スピードや、心身の症状の現れ方には個人差が非常に大きいです。そのため、早い人では30代後半から症状が出始めることもありますし、70代以降でも問題なく過ごしている方もいます。逆に、比較的テストステロンレベルが高いにも関わらず、ストレスや他の要因でLOH症候群のような症状が現れるケースも報告されています。
重要なのは、特定の年齢になったら必ず男性更年期になるというわけではなく、個々の体の状態や生活環境によってリスクが変動するということです。「まだ若いから大丈夫」あるいは「もう年だから仕方ない」と決めつけず、ご自身の体の声に耳を傾け、気になる症状があれば年齢に関わらず専門家へ相談することが大切です。
男性更年期の診断方法と基準
男性更年期(LOH症候群)の診断は、専門の医療機関で行われます。症状の確認と、男性ホルモン値の測定が主な診断基準となります。自己診断だけで判断せず、必ず医師の診察を受けるようにしましょう。
問診と症状の確認
まずは医師による詳しい問診が行われます。現在の症状、症状が現れ始めた時期、症状の程度、症状が日常生活に与える影響などについて詳しく聞かれます。前述のセルフチェックリストのような質問が用いられることもあります。
また、既往歴(過去にかかった病気)、現在治療中の病気、服用中の薬(特に精神安定剤、降圧剤など)、生活習慣(喫煙、飲酒、食生活、運動習慣、睡眠状況)、仕事や家庭でのストレス状況なども確認されます。これらの情報は、症状が男性更年期によるものなのか、あるいは他の病気や生活習慣が原因なのかを判断する上で非常に重要です。
さらに、医師は男性更年期以外の可能性も考慮し、全身の状態や他の臓器の機能に異常がないかを確認するために、身体診察や簡単な検査を行う場合もあります。例えば、甲状腺機能異常や貧血、あるいはうつ病などの精神疾患も男性更年期と似た症状を引き起こすことがあるため、これらの可能性を排除するための鑑別診断が重要となります。
血液検査によるホルモン値測定
問診の結果、男性更年期の可能性が疑われる場合、血液検査によってテストステロン値を測定します。テストステロン値は時間帯によって変動するため、通常は午前中に採血が行われます。
測定されるテストステロンには、「総テストステロン値」と「遊離テストステロン値」があります。
- 総テストステロン値: 血液中に存在する全てのテストステロンの総量を示します。ほとんどのテストステロンはタンパク質と結合しており、結合型テストステロンは生物活性が低いとされています。
- 遊離テストステロン値: 血液中でタンパク質と結合していない、生物活性を持つテストステロンの量を示します。体内で実際に作用するのは主にこの遊離テストステロンと考えられています。
LOH症候群の診断においては、一般的に遊離テストステロン値が重視されます。診断基準として、遊離テストステロン値が低いことに加えて、特徴的な症状が複数認められることが必要です。
診断基準の一例(日本メンズヘルス医学会の基準など):
項目 | 基準値(例) |
---|---|
遊離テストステロン値 | 8.5 pg/mL未満 (LOH症候群の可能性が高い) |
8.5 pg/mL以上 11.8 pg/mL未満 (LOH症候群の可能性あり) | |
LOH症候群に特徴的な心身の症状の存在 | 上記セルフチェックリストなどで評価 |
他の疾患(うつ病、甲状腺機能異常など)の除外 | 必要に応じて追加検査 |
※基準値は検査施設や学会によって多少異なる場合があります。また、テストステロン値が基準値以下であっても症状がない場合や、基準値以上であっても症状があり他の原因が見当たらない場合など、総合的な判断が必要です。
医師は、これらの問診結果、セルフチェックでの症状の程度、血液検査によるテストステロン値などを総合的に評価し、男性更年期(LOH症候群)であるかどうか、あるいは他の疾患の可能性はないかを診断します。自己判断で決めつけず、必ず専門医の診断を受けることが重要です。
男性更年期の治療法
男性更年期(LOH症候群)と診断された場合、症状の程度や個々の状態に合わせて様々な治療法が検討されます。主な治療法としては、男性ホルモン(テストステロン)を補充するホルモン補充療法、薬物療法、精神療法などがあります。
ホルモン補充療法(テストステロン補充療法)
テストステロン補充療法は、低下したテストステロンを体外から補うことで、男性更年期症状の改善を目指す治療法です。LOH症候群の根本的な原因であるホルモン低下に直接アプローチするため、多くの症状に対して有効性が期待されています。
投与方法にはいくつかの種類があります。
- 注射剤: 2週間または3〜4週間に一度の頻度で筋肉注射を行います。テストステロンレベルを比較的安定させやすい方法ですが、医療機関に通院が必要です。
- 塗り薬(ジェル、クリーム): 毎日皮膚に塗ることでテストステロンを補充します。自宅で手軽に行えるのがメリットですが、塗布部位や量によって吸収率が異なったり、塗布後に他の人との接触に注意が必要だったりします。
- 貼り薬(パッチ): 皮膚にパッチを貼ることでテストステロンを補充します。塗り薬と同様に自宅で手軽に行えますが、皮膚への刺激やかぶれのリスクがあります。
- 内服薬: 現在、日本で男性更年期の治療に用いられるテストステロンの内服薬は一般的ではありません。これは、内服薬が肝臓への負担が大きいことや、テストステロンレベルが安定しにくいといったデメリットがあるためです。
テストステロン補充療法の効果:
テストステロン補充療法によって、以下のような症状の改善が期待できます。
- 疲労感・倦怠感の軽減
- 気分の落ち込みやイライラの改善
- 性欲の回復
- 勃起力の改善(EDの改善)
- 筋力や骨密度の維持・向上
- 睡眠の質の改善
- 認知機能の改善
効果が現れるまでの期間や程度には個人差がありますが、多くの場合、治療開始から数週間〜数ヶ月で症状の改善を実感できると言われています。
テストステロン補充療法の注意点と副作用:
テストステロン補充療法は有効な治療法ですが、いくつかの注意点や副作用があります。必ず医師の指導のもとで行う必要があります。
- 投与禁忌: 前立腺がんや乳がんのある方、PSA(前立腺特異抗原)が高い方、重い心臓病や腎臓病、肝臓病のある方、睡眠時無呼吸症候群が未治療の方などは、テストステロン補充療法を受けることができません。治療開始前には、これらの疾患の有無を確認するための検査が行われます。特に前立腺への影響(肥大やがんの進行)については注意が必要であり、定期的なPSA検査や前立腺の診察が必須です。
- 副作用: 稀に、赤血球増加(多血症)、前立腺肥大の悪化、睡眠時無呼吸症候群の悪化、ニキビ、むくみ、肝機能障害などが起こることがあります。定期的な血液検査などでこれらの副作用がないかモニタリングが必要です。
- 効果がない場合: テストステロン値が低くても、必ずしもすべての症状が改善するわけではありません。特に精神的な症状が強い場合や、テストステロン低下以外の原因が大きい場合は、効果が限定的となることもあります。
ホルモン補充療法は、効果とリスクを十分に理解し、医師とよく相談した上で、個々の状態に最適な方法を選択することが重要です。
薬物療法(漢方薬など)
テストステロン補充療法以外にも、症状に応じて様々な薬物療法が用いられることがあります。
- 漢方薬: 疲労感、気分の落ち込み、不眠、冷えなど、特定の症状に対して漢方薬が処方されることがあります。男性更年期に用いられる代表的な漢方薬としては、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)などがあります。漢方薬は体質や症状に合わせて選ばれ、比較的副作用が少ないとされています。
- 抗うつ薬・抗不安薬: 気分の落ち込みや強い不安感がある場合は、精神科医や心療内科医の協力のもと、抗うつ薬や抗不安薬が処方されることがあります。
- 睡眠導入剤: 不眠がひどい場合は、一時的に睡眠導入剤が処方されることもあります。
- ED治療薬: 勃起力の低下(ED)が主な症状である場合は、シルデナフィル(バイアグラ)、タダラフィル(シアリス)、バルデナフィル(レビトラ)などのED治療薬が有効な場合があります。ただし、これらの薬剤は勃起を補助するものであり、テストステロンの低下そのものを改善するわけではありません。
これらの薬物療法は、テストステロン補充療法と併用されたり、テストステロン補充療法が適用できない場合や効果が不十分な場合に用いられたりします。
精神療法・カウンセリング
男性更年期の症状、特に精神的な症状には、心理的な要因が大きく関与している場合があります。また、ホルモンバランスの変化自体が精神状態に影響を与えることもあります。
- カウンセリング: 不安や気分の落ち込み、ストレスなどについて専門家と話すことで、気持ちの整理がついたり、問題解決のための糸口が見つかったりすることがあります。パートナーシップの問題など、人間関係の悩みも症状の一因となっている場合があり、夫婦でのカウンセリングが有効なケースもあります。
- 認知行動療法: 否定的な考え方や行動パターンを修正することで、気分の落ち込みや不安感を軽減する療法です。
精神療法は、男性更年期そのものを治すものではありませんが、症状による苦痛を和らげ、QOLを改善するために重要な役割を果たします。特に精神的な症状が強い場合や、ストレスが主な原因と考えられる場合に有効です。泌尿器科や男性専門外来と連携して、精神科や心療内科を紹介されることもあります。
男性更年期の治療は、症状、テストステロン値、年齢、基礎疾患、生活習慣などを総合的に考慮し、患者さんの希望も踏まえて医師とよく相談しながら進めることが大切です。
男性更年期の症状はいつまで続く?期間について
男性更年期(LOH症候群)の症状がいつまで続くか、という問いには一概に答えることは難しいです。症状の期間は、原因、症状の程度、治療の有無、個人の体質や生活習慣によって大きく異なるからです。
テストステロンの低下は加齢とともに進む生理的な変化であるため、無治療で放置した場合、症状が自然に完全に消えることは期待しにくいかもしれません。特にテストステロン値が著しく低い場合は、ホルモン補充療法を行わない限り、症状が継続または悪化する可能性があります。
しかし、適切な診断を受けて治療を開始すれば、多くの場合は症状の改善が期待できます。
- 治療による改善: テストステロン補充療法は、低下したホルモンを補うことで、比較的早期(数週間〜数ヶ月)に身体的、精神的、性機能的な症状の改善をもたらすことが多いです。漢方薬などの薬物療法や精神療法も、症状の緩和に役立ちます。治療を継続することで、症状が安定したり、ほとんど気にならないレベルになったりすることもあります。
- 生活習慣の改善: 食事、運動、睡眠、ストレス管理といった生活習慣の改善は、テストステロン値の維持・向上に貢献し、症状の緩和や予防につながります。生活習慣を継続的に見直すことで、長期的に体調を安定させることが可能です。
ただし、LOH症候群は慢性的な状態であるため、治療を中止したり、生活習慣が乱れたりすると、再び症状が現れる可能性があります。治療や生活習慣の改善は、一時的なものではなく、継続して取り組むことが望ましい場合が多いです。
また、テストステロン値が正常範囲内であっても、ストレスや他の原因で男性更年期のような症状が出ている場合は、その原因を取り除くことが症状改善の鍵となります。
症状の期間は個人差が大きいことを理解し、もし症状が長引いている、あるいは悪化していると感じる場合は、我慢せずに再度医師に相談することが重要です。専門医と連携し、ご自身の状態に合った治療や対策を続けることで、症状をコントロールし、QOLを維持することが可能になります。
男性更年期の改善と予防に役立つ生活習慣
男性更年期(LOH症候群)の症状改善や予防には、日々の生活習慣の見直しが非常に重要です。適切な生活習慣は、テストステロンの分泌を促し、心身の健康を維持する上で大きな助けとなります。
食事のポイント
バランスの取れた食事は、ホルモンバランスを整え、体全体の機能を維持するために不可欠です。テストステロン合成に必要な栄養素を意識的に摂取しましょう。
食事のポイント | 具体的な食品例 | 備考 |
---|---|---|
良質なタンパク質を摂取する | 肉(赤身)、魚、卵、大豆製品(豆腐、納豆など)、乳製品 | 筋肉量維持、ホルモン合成に重要 |
亜鉛を積極的に摂る | 牡蠣、牛肉、豚レバー、うなぎ、ナッツ類(アーモンドなど)、ゴマ | テストステロン合成に必須 |
ビタミンDを含む食品 | サケ、サバなどの青魚、きのこ類(干ししいたけ)、卵黄 | 日光浴でも生成される |
バランスの取れた食事 | 主食(ごはん、パン)、主菜(肉、魚、卵、大豆)、副菜(野菜、きのこ、海藻)を揃える | 様々な栄養素を摂取 |
飲酒は適量に | 過度な飲酒はテストステロン低下のリスク | |
ジャンクフード・加工食品 | 控えめにする |
適度な運動習慣
運動はテストステロン分泌を促し、筋力維持や肥満防止にも役立ちます。
- 筋力トレーニング: 特に下半身や大きな筋肉を鍛えるスクワットやデッドリフトのような複合的なトレーニングは、テストステロン分泌を刺激すると言われています。週に2〜3回、無理のない範囲で行いましょう。
- 有酸素運動: ウォーキング、ジョギング、水泳なども心肺機能を高め、肥満防止に効果的です。週に150分程度(1日30分を週5日など)を目安に行いましょう。
- 継続性: 最も重要なのは継続することです。無理な目標を立てず、日常生活に取り入れやすい運動を見つけて楽しみながら続けましょう。
質の高い睡眠の確保
睡眠中にテストステロンは多く分泌されます。睡眠不足はホルモンバランスの乱れにつながり、テストステロン低下のリスクを高めます。
- 睡眠時間: 1日7〜8時間の睡眠を目指しましょう。
- 睡眠の質: 寝る前にカフェインを控える、寝室を暗く静かにする、寝る直前のスマホやPCの使用を避けるなど、質の高い睡眠を得るための工夫をしましょう。
- 規則性: 毎日できるだけ同じ時間に寝て起きるように心がけ、体内時計を整えましょう。
ストレス解消法
慢性的なストレスはテストステロンの大敵です。自分に合った方法でストレスを解消することが大切です。
- 趣味やリラクゼーション: 好きな音楽を聴く、読書をする、瞑想する、入浴する、自然の中で過ごすなど、自分がリラックスできる時間を作りましょう。
- 適度な休息: 仕事や活動の間に休憩を挟み、心身を休ませる時間を取りましょう。
- 友人や家族との交流: 人と話をしたり、悩みを共有したりすることで、ストレスが軽減されることがあります。
- プロフェッショナルのサポート: ストレスが強い場合は、カウンセラーや医師に相談することも検討しましょう。
これらの生活習慣の改善は、男性更年期の症状だけでなく、心血管疾患や生活習慣病の予防にもつながり、全体的な健康寿命を延ばす効果が期待できます。今日から少しずつでも良いので、できることから始めてみましょう。
男性更年期かもしれないと感じたら?何科を受診すべきか
もしご自身やご家族が男性更年期(LOH症候群)かもしれないと感じたら、一人で悩まずに医療機関を受診することが大切です。適切な診断と治療を受けることで、辛い症状から解放され、QOLを改善することができます。
男性更年期の診断・治療を行っている診療科はいくつかあります。
- 泌尿器科: 男性ホルモンや性機能に関する専門的な知識を持つため、男性更年期の診断やテストステロン補充療法を含む治療の中心となります。多くの泌尿器科で男性更年期外来を設けています。
- 男性専門外来(メンズヘルス外来): 男性特有の健康問題全般を扱う専門外来です。男性更年期だけでなく、ED、男性不妊、前立腺疾患など、幅広い相談に対応しています。複数の診療科の医師が連携している場合もあります。
- 内分泌内科: ホルモンの分泌異常を専門とする診療科です。テストステロン以外のホルモン異常や、視床下部、下垂体、精巣など内分泌器官の疾患が疑われる場合に適しています。
- 精神科・心療内科: 気分の落ち込み、不眠、イライラといった精神症状が強い場合や、ストレスとの関連が大きいと考えられる場合に相談できます。泌尿器科などと連携しながら治療を進めることもあります。
- かかりつけ医: まずは普段から相談しているかかりつけ医に相談してみるのも良いでしょう。男性更年期の可能性を伝え、適切な専門医を紹介してもらうことができます。
どの診療科を受診すべきか迷う場合は、まずは最寄りの泌尿器科や、男性専門外来があるクリニックを探してみるのが良いでしょう。事前にウェブサイトなどで、男性更年期(LOH症候群)の診療に対応しているか確認しておくとスムーズです。
受診の際には、どのような症状があるか、いつ頃から症状が現れたか、どのようなときに症状がひどくなるかなど、具体的に伝えられるようにメモしておくと役立ちます。また、服用中の薬がある場合は、お薬手帳などを持参しましょう。
男性更年期は適切な治療や対策によって症状を改善できる可能性があります。「歳のせい」と諦めず、積極的に医療機関を受診して専門家のアドバイスを受けることを強くお勧めします。
この記事の監修者情報(E-E-A-T担保)
(この記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の専門家による監修を受けたものではありません。健康状態に関する正確な診断や治療方針については、必ず医療機関にご相談ください。)
まとめ
男性更年期(LOH症候群)は、加齢に伴うテストステロンの低下を主な原因とし、40代以降の男性に起こりやすい心身の不調です。疲労感、気分の落ち込み、性欲や勃起力の低下など、様々な症状が現れ、日常生活に大きな影響を与える可能性があります。
これらの症状は「歳のせい」と片付けず、適切な診断と対策を行うことが重要です。セルフチェックである程度の可能性を把握できますが、確定診断には専門医による問診と血液検査が必要です。
男性更年期と診断された場合は、テストステロン補充療法をはじめとする薬物療法や、精神療法などが有効な治療法として行われます。また、バランスの取れた食事、適度な運動、質の高い睡眠、ストレス解消といった生活習慣の改善は、症状の緩和・予防に大きく貢献します。
もし男性更年期かもしれないと感じたら、泌尿器科や男性専門外来など、男性の健康問題に詳しい医療機関に相談しましょう。早期に適切な対応をすることで、辛い症状を改善し、活動的で充実した毎日を送ることができます。
免責事項:この記事で提供する情報は一般的な知識に基づくものであり、個々の症状や状態に応じた診断・治療は専門医の判断が必要です。自己判断せず、必ず医療機関にご相談ください。